広く浅く、程々に深く。

好きで何が悪い

彼の覚悟に幸あれ

昨日はバイトを休んで、髪を切りに行った。

理由なんてない。ただ休みたかったからだ。

申し訳なさを感じつつもバイト先に休むと伝え、再び布団に潜り夕方までぐっすり寝た後行きつけの美容室へ向かった。髪を切るのは1ヶ月ぶりぐらいだったか。ここ最近は忙しく、手入れをサボった代償に私の髪はボロボロでくたびれた様に弱々しかった。

美容室ではいつも同じお兄さんが切ってくれる。

「前髪は眉にかかるくらいで、毛先は整える程度。長さはほぼ変えない。」これが私がいつも伝えるメニューだ。

今回もお兄さんは「長さは変えないんだよね?」と私に聞いた。いつもなら「はい」と答えるところだが、私の口は別の言葉を発していた。「いつもより少しだけ短くして下さい」と。

結果的に、少しだけ後悔した。もちろんお兄さんの技術は完璧だったが、それでも肩にかかる髪の少なさに違和感というか、何かモヤモヤするものを覚えた。

他人から見れば大して変わらない5センチも、私にとってはどうやらとても大切な5センチだったらしい。母の様に黒く艶やかで上品な長髪にしたいと言い出したのは中2の秋ぐらいだったろうか。

自宅のマンションのエレベーターに乗り込みみ、指に短くなった毛先を絡ませじっと見つめていると、ふと突然、今日は彼の誕生日だった事を思い出した。どうしてか忘れていた。昨夜はtwitterでフォロワー達と盛大にお祝いしたのに。

彼、田口淳之介は美しかった。

スラリと長い手足を精一杯使いしなやかに踊る姿、人懐っこい愛嬌のある笑顔、優しく清らかな心。全てが完璧で、美しかった。まるで世界中の人々に愛される為に生まれてきた様な人だとも思った。

彼のおかげで卒業したはずのジャニーズの世界へ引き戻され、KAT-TUNというグループを改めて知る事が出来た。

私は彼に興味をもったばかりで、まだまだ知らないことばかりだ。だからこそ私は、これから彼はどんな新たな魅力を見せてくれるんだろう、どんな世界へ連れていってくれるんだろうとワクワクしていた。

そんな中、彼は突如グループと事務所脱退を宣言した。

まっすぐ前を見つめた、覚悟を決めた様な表情に様々な憶測と悲痛な声が飛び交い、心無い言葉が私のTLを埋めた。とても苦しかった。涙すら流れた。だが、それでも私は彼を恨もうとは思えなかった。その代わりに「惜しい」と思った。あんな美しい人が、自らの手で輝きを殺すのだ。本当に本当に惜しい。だが、彼はアイドルである前に人間だ。私達と同じ人間だから彼なりに考えがあってこういう結論に至ったのだろう。覚悟を決めた彼に「辞めないで」と気持ちを押し付けるのはファンのエゴなのではないかとも感じた。だから、仕方ない事なんだと思う。

だが彼がした事は裏切りだ。10年以上苦楽を共にしてきたメンバーと長い間応援してくれていたファンへの裏切り行為。それはよく分かっている。

でもそれを「仕方ない」で済ませれる辺り、私はやっぱり彼の事が好きで、彼がいるKAT-TUNが好きで、これからも嫌いになんてなれないのだろう。でもそれでもいいんじゃないのかと思った。好きに理由なんてない。私は彼が好きで好きでたまらなくて、彼が自分の人生を選んだのならそれを応援し、過去に執着して生きていくのが正解だろうと。否、それしか出来ないのだろうと。これがこの数日の間に私がたどり着いた答えだ。

そして今これを打っていて思ったのが、私が髪を少しだけ短くしたのは多分、あんなにも大きな決断を下した彼の覚悟が、少し羨ましかったのかもしれない。

でもやはり私には5センチが限界だった。もう少し切れば逆に吹っ切れて後悔なんてしなかったのか、それとも長さを変えなければ良かったのかは分からない。

ただどうか彼の決意が、私と同じような後悔には絶対に染まらないでほしいと心から願っている。